アシッド・レイン
---- 第二章 (4)----

大阪に着いたのは夕方近くになっていた。芦沢と木下は大阪駅からタクシーを飛ばして近畿電力の幹部が待つ料亭に入った。
打ち水をした庭を抜け、旧館の二階に上がると部屋には五人が待っていた。それを見て芦沢は相手は本気だなと判断した。

電力会社が地元に投下するネゴシエーションのための資金は、決して少ないものではない。が、自社での企画はどうしても手前味噌の内容になってしまい、投資に見合った効果が上がっていないのが実情だった。
イメージアップキャンペーンは鳴りをひそめ、ひたすら報道管制を敷くことで対応してきたのだが、二年続きの電力消費量の落ち込みをカバーするために、ちょうど何らかのキャンペーンを張る必要を感じていたところだという。
この話が電力消費量の回復につながる保証は全くないが、エコロジーがらみのテレビ局の持ち込み企画というのに興味があるらしいことは、勢ぞろいしたメンバーの顔つきに表れていた。

社交辞令と名刺交換のあと、話を切り出そうとする芦沢を遮るように料理が運ばれて来た。そしていきなり酒を勧められる。
前菜から始まる懐石料理を食べ、酒を差しつ差されつしながら政治の話や景気の話や、最近、大阪にできたディスコの話やをしているうちにお開きとなった。

北新地に席が設けてあるということで移動することになった。料亭を出ると、黒塗りのハイヤーが二台すでに待っていた。
近畿電力の幹部のうち二人は同行せずに見送り、三人は芦沢たちとは別のハイヤーに乗り先導した。料亭から北新地の店へは直ぐに着いた。
具体的な話は料亭では全くしていない。幹部たちは次の店で本題を切り出すつもりのようだった。
ハイヤーを返し、エレベーターで数階を昇り、ステンレスでできた大きなドアを開け、一番奥のボックス席に腰を下ろした。

店内ではちょうどショーをやっていた。白塗り厚化粧の男女二人の道行きの図。品をつくる女を男が袖にするという場面だ。

赤い唐笠が宙に舞い、それを合図に雪が降り始める。
思い詰めた女が肩で泣く素振りを見せると、後ろ髪を引かれた男が近寄り女の肩を抱く。音楽がクライマックスを暗示すると、男が女の背中に手をやり、帯解けシーン。
女が一糸まとわぬ姿になると、それを見て男の方も着物を脱ぎ始め、女がそれを手伝う。
男が着物を脱ぎ終わると、中身は女。二人が妖しく絡み合ったところにスポットライトが当たり、一瞬の後に暗転。

少しの間を置いてアップテンポな曲が流れ始めると、打って変わって宝塚歌劇のフィナーレのような艶やかな衣装に身を包んだ女たちが舞台に浮かび上がる。
宝塚歌劇と違うのは隠すべきところを隠していないという点だ。両乳房を自慢げに突き出し、陰毛と性器を露出している。
音楽が徐々に激しくなりエンディングに向かうと、横一列に並んだ女たちがラインダンスを始めた。芦沢の趣味はとっくに下調べが済んでいるようだった。

「大変面白い趣向だと思って検討させていただいております」

「そうですか。ただ、先程も申し上げましたとおり、こちらの木下課長の方のご意向といたしましては、どうしても単独スポンサーで、ということでして」

「そのことは構わないのではと思います。私どもといたしましては、その方がわざとらしくなくて好ましい次第でして。提供してしまえばどうしてもヤラセと思われるような時代ですしね」

「そう言って頂けると助かります。木下課長を目の前にして申し上げにくいのですが、やっぱり、企業の格から申しましても違い過ぎますので、かすんでしまうようなことになりますと、今までの経緯や歴史ということもございまして」

「とにかく、大筋はOKです。ただ、提供はしませんが、パブリシティの方、宜しくお願いしたいわけで。ちょうど新しい原発も建設中のことでもありますし。それから、二村間の調整の方、これも我々の不得手とするところですので」

「はい。分かりました。そちらの方はお任せください。すでに隣村の方は承諾済ですし、私どもの方も全社を挙げてのキャンペーンにする予定ですので、宜しくお願いします」

「じゃ、我々はこれで。ああ、西山建設の件ですが、今日早速当社の下請け工事から外すように指示しておきましたから。後はそちらで交渉していただけますか」

芦沢は立ち上がって、去っていく三人に深々と頭を下げながら、このプロジェクトの成功を確信した。

東京に戻った芦沢は、最後に残った問題を解決すべく斎藤にコンタクトを取った。